コラム
改善基準告示 改正と影響について、社労士が解説
2024年4月より改善基準告示の改正が行われました。今回の記事では、改正による具体的な影響とその有効な対策について紹介します。
目次
- 1 改善基準告示の概要と、改正の背景
- 2 改善基準告示改正のポイント
- (1)拘束時間の短縮
- (2)休息期間の延長
- (3)時間外労働の上限規制
- (4)【特例措置】バス運転手に関する特例措置とその詳細
- 3 変更点の影響
- (1)ドライバーの健康と安全に与える影響
- (2)企業の労務管理に対する影響
- 4 効果的・効率的な労務管理の方法
- 5 おわりに
1. 改善基準告示の概要と、改正の背景
改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことを指します。具体的には、トラック、バス、タクシーなどの自動車の運転を業として行う労働者に対して、労働時間などの労働条件の向上を図るために拘束時間の上限、休息期間について設けられている基準です。しかしながら、これらの労働者は職業柄長時間の運転や深夜時間の労働が慣習的になりやすいため、心身の健康を確保できるようにすることが課題とされ続けていました。事実として、脳・心臓疾患による労災支給決定件数において、運輸業・郵便業は全業種の中で最も多い業種となっています。
今回の改正は上記の説明のとおり、自動車運転者の長時間労働による健康被害を抑制するために施行されるという背景があります。
2. 改善基準告示改正のポイント
(1)拘束時間の短縮
今回の改正によって、1日、1か月、1年あたりの従業員の拘束時間が短縮されました。
【タクシー・ハイヤーを運転する日勤勤務者】
- • 1か月の拘束時間
- 288時間以内へ短縮されます
- • 1日の拘束時間
- 13時間以内(上限は15時間以内で14時間を超えるのは週に3回までを目安とします)
【タクシー・ハイヤーを運転する隔勤勤務者】
- • 1か月の拘束時間
- 262時間以内に短縮されます(特別な事情があるなど、労使協定を結ぶことで270時間となる可能性があります)
- • 2暦日の拘束時間
- 22時間以内、かつ2回の隔日勤務を平均し1回あたり21時間以内
【トラック運転者】
- • 1年の拘束時間
- 原則3,300時間(労使協定を結ぶことで最大で3,400時間)に短縮されます
- • 1か月の拘束時間
- 原則284時間(労使協定を結ぶことで最大310時間)に短縮されます
- • 1日の拘束時間
- 13時間以内(上限は15時間以内で14時間を超えるのは週に2回までを目安とします)
【バス運転者】
- • 1年の拘束時間
- 原則3,300時間(労使協定を結ぶことで最大3,400時間)に短縮されます
- • 1か月の拘束時間
- 原則281時間(労使協定を結ぶことで年6回を上限に最大294時間)に短縮されます
(2)休息期間の延長
【タクシー・ハイヤーを運転する日勤勤務者】
継続11時間以上与えるように努めることを基本とし、最低でも9時間以上は与える
【タクシー・ハイヤーを運転する隔勤勤務者】(2暦日)
継続24時間以上与えるように努めることを基本とし、22時間を下回らないようにする
【トラック運転者】
継続11時間以上与えるように努めることを基本とし、最低でも9時間以上は与える
【バス運転者】
継続11時間以上与えるように努めることを基本とし、最低でも9時間以上は与える
(3)時間外労働の上限規制
今回の改正によって、自動車運転の業務を行うものに対し特別条項付き36協定を締結する場合の、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
自動車運転以外の一般業務における時間外労働の年間上限(720時間)と比較すると、より長い時間が定められてはいるものの、上限規制がなかった改正前に比べ、極端な長時間労働を抑制することが期待されます。
(4)【特例措置】バス運転手に関する特例措置とその詳細
① 分割休息
業務上の必要性から、勤務終了後に継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合は、一時的な措置として、休息期間を拘束時間の途中および拘束時間の経過直後に分割して与えることが認められます。
※ 特定の期間(最大1か月)における残勤務回数の2分の1を上限とする
この場合、分割された休息時間は1回につき連続4時間以上、合計11時間以上とする必要があります。分割は最大2分割とし、それ以上の分割は認められません。
② 2人乗務
バス運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合かつ、車両内に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合には、拘束時間を延長し、休息時間を短縮することができます。
【拘束時間を20時間、休息時間を4時間と取り扱うことができる要件】
- ① 運転するバスの車内に車両内ベッドが設けられていること
- ② 車両内ベッドのある座席にカーテンなどの設備があり、他の乗客からの視線を遮断できるようになっていること
【拘束時間を19時間、休息時間を5時間と取り扱うことができる要件】
- バス運転者の専用の座席として、身体を伸ばして休息できるリクライニング式の座席が少なくとも一座席以上確保されていること
3. 変更点の影響
(1)ドライバーの健康と安全に与える影響
今回の改正によって、拘束時間の上限引き下げに加え、確保すべき休息時間が延長されました。これにより、自動車運転労働者にとって心身を休める時間を以前より多く確保することができるようになるため、健康面と安全面の向上が期待されます。
(2)企業の労務管理に対する影響
その一方で、今回の改正は企業側にとっては新たな問題点を生じることも考えられます。
新たに考えられる以下の代表的な事例については、対策を講じていく必要があります。
- ① 従業員の残業代が減少するため、実質の収入が減少する
長時間労働が常態化している場合は、総収入のうち残業代が占める割合も必然的に大きくなります。今回の改正によって残業時間が大きく削減されることになった場合は、健康面では労働環境が改善されたと満足する反面、収入面では今までとのギャップに不満を抱く従業員が増える可能性があります。 - ② 事業の生産量が減少し、利益が減る
改善基準告示の改正により、従業員の運転可能時間を削減しなければならないこととなると、事業の生産量を抑えるか業務フローの改善などを図るなどして、オーバーワークにならないような工夫を講じなければなりません。 - ③ 人手不足が加速し、採用業務などの負担が増す可能性がある
先ほどと同様に、1人当たりの労働量が減ることになるので、従業員の補填を行わなければならなくなる事業所が増えることが想定されます。
そのため採用業務など、別部署の負担が増える可能性があります。
4. 効果的・効率的な労務管理の方法
労務管理を効果的かつ効率的に行うためには、システムを活用した管理が不可欠です。
特にERP(※)の導入・活用は、労務管理業務の効率化に加え、組織全体のパフォーマンス向上にも大きく寄与します。
※ ERPとは:会計・人事・経費・勤怠管理など、企業の基幹業務におけるデータを一元管理し、業務プロセスの効率化と統合を支援するためのシステム
たとえばクラウドERP「ProActive C4」を活用することで、リアルタイムでのデータ管理を実現し、情報の即時更新と正確な把握が可能になります。操作性が高く直感的に扱いやすいUI・UXで、現場におけるスムーズなデータ入力も可能です。
ERPシステムを導入・活用することで、シフト管理の最適化や労働時間の可視化などが容易となり、労務管理の効率が格段に向上します。
5. おわりに
ドライバーの長時間労働が問題視される中、今回の告示改正を受け、より一層その改善に向けた積極的な取り組みが必要となっています。
改善事例の一例として、ドライバーが荷物の積み下ろしを行う時間の確保や積み下ろしの順番を待つ「荷待ち時間」の改善が必要と考え、当該時間の短縮に役立つ車両を導入したり、ドライバーの健康管理向上の一環として酸素BOXを導入するなどの取り組みを行っている事業所もあります。
改善策は他にも多くあり、それぞれの事業所に合った対応策を検討してみることが大切です。
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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