コラム
【2024年10月施行】社会保険適用拡大について、社労士が解説
社会保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件は、従業員数100人超の企業とされていますが、2024年10月からは、従業員数50人超の企業へと拡大されます。
企業は、コスト面はもちろん短時間労働者の事情を把握し、総合的に対応する必要があります。
今回の記事では、人事労務のエキスパートとして様々なサービスを全国に展開する小林労務が、社会保険適用拡大について、詳しく解説します。
目次
- 1 社会保険適用拡大とは
- (1)社会保険とは
- (2)社会保険適用拡大の背景
- 2 2024年10月施行の社会保険適用拡大について
- (1)対象となる企業
- (2)対象となる労働者
- (3)撤廃される要件
- (4)従業員数のカウント方法と判断のタイミング
- 3 従業員への影響
- (1)メリット
- (2)デメリット
- 4 社会保険適用拡大にあたり企業が行うべきこと
- (1)適用拡大の要件に該当する短時間労働者の洗い出し
- (2)社内周知・説明会などの開催
- (3)社会保険加入に必要な書類作成とその届出
- 5 社会保険の提出における電子申請利用のメリット
- (1)いつでも・どこでも申請可能
- (2)手書きする手間の削減
- (3)時間・お金などのコスト削減
- 6 おわりに
1. 社会保険適用拡大とは
(1)社会保険とは
社会保険は、社会保険保障の一環として労働者やその家族の生活の安定を図るため、年金・医療・介護・負傷などに対して事業主と労働者が相互に保険料を出し合い、保障を受ける制度となります。
また、社会保険には狭義と広義の意味があります。
狭義の社会保険は、健康保険・介護保険・厚生年金保険を指し、会社で要件を満たすと加入することができます。
一方で、広義の社会保険は、狭義の意味での社会保険に加えて、雇用保険・労災保険・国民健康保険・国民年金のことを指します。
(2)社会保険適用拡大の背景
社会保険適用拡大の背景には、今後予測される人口減少と高齢化の加速が関係しています。
従前よりも、多くの労働者が長期間労働を求められるようになったことなどの変化を年金制度に反映し、高齢期の経済基盤の安定を図る必要があります。
2. 2024年10月施行の社会保険適用拡大について
(1)対象となる企業
現在、短時間労働者に対する社会保険の適用が拡大されている特定適用事業所は、従業員規模が100人超の企業を指します。しかし、2024年10月からは、この基準が50人超の企業にまで拡大されます。
ただし、この従業員50人超の「従業員」とは、適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数であるため、従業員数のカウントは不要です。
また、被保険者の総数が常時100人を超える場合とは、以下のことを指します。
- ①法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する、すべての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数が12か月のうち、6か月以上100人を超えることが見込まれる場合
- ②個人事業所の場合は、適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険者の総数が12か月のうち、6か月以上100人を超えることが見込まれる場合
(2)対象となる労働者
適用事業所に使用される短時間労働者については、原則、下記①②を満たせば被保険者とはなりません。
- ①1週間の労働時間が4分の3未満
- ②1か月の労働日も4分の3未満
しかし、特定適用事業所に勤務する方で、以下の条件にすべて該当する短時間労働者は対象となります。
- ①週の所定労働時間が20時間以上(残業時間は含めない)
- ②所定内賃金が月額8.8万円以上(通勤手当、残業代、賞与は含めない)
- ③2か月を超える雇用の見込みがある
- ④学生ではない(定時制などを除く)方
(3)撤廃される要件
社会保険の適用事業所拡大の動きが進んでいる中で、政府は現在、企業規模の要件そのものを撤廃していく方針を固めています。具体的な詳細は未定ですが、今後においてすべての企業が社会保険適用の対象になる可能性があります。
(4)従業員数のカウント方法と判断のタイミング
従業員のカウント方法についても、注意が必要な部分の1つです。事業所のすべての従業員をもって50人を超えるか否かを判断するのではなく、「事業所にいる70歳未満の者のうち、厚生年金保険の適用除外者に該当しない人」をカウントして50人を超えるかを判断します。
また、労働者数の変動が多い場合は、どのタイミングで50人超かどうかを判断するかが問題となりますが、たまたまひと月の従業員が50人を超えたとしてもすぐに特定適用事業所に該当するものではなく、1年間のうちに6か月以上従業員数が50人を超えることとなった場合に該当することになっています。また、今まで特定適用事業所でなかった事業所が、新たに該当することとなった場合は「特定適用事業所に関する重要なお知らせ」が年金事務所より送付されることになっておりますので、届いた際には確認をする必要があります。
3. 従業員への影響
(1)メリット
・保障が手厚くなる
社会保険の被保険者でない場合は、企業で働く従業員が一般的に受けることができる健康保険や厚生年金保険の給付を受けることができません。
健康保険については、社会保険の被保険者でない場合であっても国民健康保険に加入するため、同様の保障を受けられますが、厚生年金保険については、被保険者となることで将来的に年金の2階部分といわれている厚生年金を受け取ることができるようになる点は、メリットの一つです。
(2)デメリット
・国民年金の第3号被保険者でいられなくなる可能性がある
国民年金第2号被保険者に扶養されている配偶者は、国民年金第3号被保険者となり、自らは保険料を負担することなく、健康保険や国民年金の保障を受けることができるため、国民年金第3号被保険者のままでいたい従業員は多いと予想されます。
今回の社会保険適用拡大によって、今までは国民年金第3号被保険者であった人が、社会保険の被保険者になることによって国民年金第2号被保険者となると、当然に保険料の負担が求められることになるため、大きなデメリットを感じる従業員も多く考えられます。
4. 社会保険適用拡大にあたり企業が行うべきこと
(1)適用拡大の要件に該当する短時間労働者の洗い出し
短時間労働者を社会保険に加入させるにあたり、社会保険料の1人当たりの負担額をシミュレーションします。
確認方法としては、厚生労働省の社会保険適用拡大特設サイトにある「社会保険料かんたんシミュレーター」が便利です。
(2)社内周知・説明会などの開催
社会保険は複雑で分かりにくい制度であるため、上述した特設サイトにあるリーフレットを活用し、社内に周知することが望ましいです。
また、社会保険に加入すると保険料がかかるため、この点の説明を十分にする必要があります。
一方で、もし怪我をした時には健康保険から傷病手当金の受給が可能であることや、将来の年金額に反映されるというメリットを説明することも大事です。
(3)社会保険加入に必要な書類作成とその届出
特定適用事業所に該当すれば、社会保険の被保険者資格取得届を人数分作成し、届出をすることが必要です。
また、被扶養者の有無について確認し、被扶養者がいる場合は被扶養者異動届を作成し、届出をします。
社会保険に関する申請については、2020年4月から特定の法人に対して電子申請が義務化されており、義務化の要件に該当しない事業所についても申請のオンライン化が加速しています。
5. 社会保険の提出における電子申請利用のメリット
(1)いつでも・どこでも申請可能
役所の開所・閉所時間にかかわらず、24時間いつでも申請可能です。
また、インターネット環境が整っていれば、職場や自宅、遠隔地であっても申請することができます。
(2)手書きする手間の削減
手続の申告書や届出書を手書きする手間を削減できます。
また、訂正が必要な場合でも、手で書き直す必要がなくなります。
(3)時間・お金などのコスト削減
自宅や職場から申請することが可能なため、役所の窓口へ出向く必要がなく、複数の窓口を回る手間もありません。
これにより、役所へ行くための交通費や郵送費、人件費も削減可能です。
5. おわりに
2024年10月からの社会保険適用拡大は適用範囲が中小企業に及ぶため、企業と短時間労働者の双方にとって大きな影響が出ると想定されます。また、対象となる労働者には、適切な対応をしなければ、思わぬトラブルに発展することも考えられますので、今回のコラムの内容をご活用いただければ幸いです。
e-asy電子申請.comは給与システム「ProActive」と連携しています。
社会保険加入時に必要なデータをProActiveから出力し、e-asy電子申請.comへ連携することもできますので、手間を削減することが可能です。
図:電子申請の導入メリット
ProActive 給与管理システム
SCSKが提供するProActive 給与管理システムでは、労働保険の年度更新業務資料出力をはじめ、多様化する人事制度や雇用形態に応じ、様々な報酬計算に対応しています。また、法改正や各種申告制度の変更についても随時対応いたします。
2020年からは、社会保険・労働保険の電子申請義務化に伴い、ProActiveとe-asy電子申請.comの電子申請連携ソリューションを提供しています。
株式会社小林労務(https://www.kobayashiroumu.jp/)
代表取締役社長 特定社会保険労務士
上村 美由紀
2006年 社会保険労務士登録
2014年 代表取締役社長就任
電子申請を取り入れることにより、業務効率化・残業時間削減を実現。
2014年に、東京ワークライフバランス認定企業の長時間労働削減取組部門に認定される。
社労士ベンダーとして、電子申請を推進していくことを使命としている。
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